前橋地方裁判所 昭和44年(行ウ)3号 判決 1973年3月13日
群馬県桐生市本町六丁目一〇番地
原告
株式会社 銀座
右代表者代表取締役
小太刀セン
右訴訟代理人弁護士
榎赫
同県同市永楽町二丁目字長ノ塚一二七三番地の四
被告
桐生税務署長
高橋茂
右指定代理人
森脇勝
同
山田勅友
同
高林進
同
堀井善吉
同
大関和夫
同
岡孝美
同
丸山豊一
同
広田明雄
右当事者間の法人税更正決定等取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(原告)
(原告の趣旨)
一、原告の昭和三七年二月一日から同三八年一月三一日までの事業年度の法人税について、被告が同四三年三月二九日付でなした更正処分および重加算税賦課処分はいずれもこれを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
(請求の趣旨に対する答弁)
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
(請求原因)
(請求原因に対する答弁)
一、原告はパチンコ店営業を業とする株式会社である。
一、認める。
二、原告は被告に対し、原告の昭和三七年二月一日から同三八年一月三一日までの事業年度(以下これを「本件事業年度」という)の法人税について、次のとおり確定申告した。
所得金額 一、八二五、九四九円
二、認める。
三、被告は原告に対し、昭和四三年三月二九日付で、本件事業年度の法人税について、法人税額の更正処分および重加算税賦課処分をなした。
所得金額 六、六四九、〇五九円
法人税額 二、三四八、九〇〇円
重加算税 五四五、四〇〇円
三、認める。
四、原告は右各処分について、昭和四三年四月二七日被告に対し異議の申立をしたが、被告は同年七月二五日付をもつて右異議申立を棄却する旨の決定をした。そこで原告は同年八月二〇日さらに関東信越国税局長に対し審査請求をしたが、同国税局長は同四四年三月五日付をもつて右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
四、認める。
五、しかしながら、原告は前記各処分を受ける理由がないので、被告に対しその取消を求める。
五、争う。
(被告の主張に対する答弁)
(被告の主張)
第一
第一本件更正処分の根拠
一、争う。
原告は青色申告の承認を受け、法定の諸帳簿を備え付け、税理士指導のもとに記帳をなしていたのであるから、推計課税を行なう前提条件を欠く。
一、推計課税により得る場合であること。
原告は一応諸帳簿類を備え付けてはいるが、以下に述べるように、取引の一部を隠ぺい仮装した記帳があるなどその信頼性が乏しいので、原告の財産の増減の状況、収入若しくは支出の状況および遊戯機械の台数その他事業の規模等にもとづき、旧法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号)三一条二項に規定する推計課税を行つた。
二、認める。
二、原告と株式会社浅草との関係
原告と訴外株式会社浅草(以下これを「原告ら」という)とは、いずれもパチンコ店営業を業とし、代表者を同じくする姉妹会社であることから、事務所は双方に共通であり、同一の事務員によつて経理が行われ、同一人によつて現金の管理がなされていた。
三、争う。
三、原告に帰属する簿外預金
(一) 原告の法人税確定申告によれば、その申告内容は、遊戯機械一台当り収入金、収入総利益率、営業利益率等が原告と同様に桐生市内で青色申告をなしている同業法人に比して著しく低率で不均衡と認められ、その記帳は営業の実体を反映しているものとは到底認め難く、相当多額の所得の逸脱があるものと推定された。
被告主張の預金は原告の全く関知しないものである。そのうち亀山幸雄名義の預金は原告の使用人亀山幸雄名義の預金は原告の使用人亀山幸雄に帰属するものである。
調査の結果、訴外横浜銀行桐生支店における青木俊雄名義ほか七口の架空および他人名義の普通預金は、原告の正規の備付帳簿に記載されていないが、後記(二)の理由により、いずれも原告らに帰属するものであることが判明し、原告の簿外の収入金額がこれら普通預金に預け入れられていると推認された(これら普通預金の詳細は別紙第四目録)。
(二) 前記架空および他人名義の普通預金が、原告らに帰属することは次の諸事実から明らかである。
(1) 均一日掛入金をしている事実(原告らの営業が現金営業であることと照応する)
(2) 被告が原告の所得調査に着手した直後に預金取引が中断されている事実
(3) 預金名義人の住所が原告所在地と一致すること
(4) 使用した名義に原告の使用人と同姓同名のものがあるなど原告と密接な関連が認められること
(5) 普通預金伝票に「浅草」「銀座」の表示がある事実(真実の預金者を覚え書きとして記入したものと認められる)
(送金の事実は認めるが、被告主張の預金とは関連がない。)
(6) 架空名義預金から払い戻した分を原告らの当時の代表取締役小太刀賢次が送金した事実
(7) 架空名義預金が、原告らの公表預金と同時に入出金している事実(出納番号が連続している)
(8) 入出金伝票の類似点から各預金が同一人に帰属すると認められること
(9) 預金相互間の振替により各預金が同一人に帰属すると認められること(その詳細は前記のほかに別紙第五目録(1)ないし(4))
(10) 架空名義普通預金の払戻請求書に前記小太刀賢次の筆跡と認められるものがある事実
四、争う。
四、課税所得金額の算定
(一) 総収入金額
(1) 前記横浜銀行桐生支店の青木俊雄名義ほか七口の架空および他人名義の普通預金の、本件事業年度における預金の預入総額から、売上収入金額とは直接関係のない金額(預金相互間の預け替えによる預入額、受取利子預入額等の合計額)を差引いた残額を原告らの本件事業年度における簿外収入金額と計算(その詳細は別紙第一目録、預金相互間の預け替えの詳細は同第五目録(2))。
(遊戯機械の台数は被告主張のとおりである。)
(2) 右簿外収入は、原告の収入と株式会社浅草の収入とが混合されており、これを分別するには推計するしかないので、両者の遊戯機械台数の割合で簿外収入金額を按分した(両者の遊戯機械の台数は原告二八一台、株式会社浅草二九一台である。ただし、昭和三七年二月分については、原告二四〇台、株式会社浅草二九一台である。按分の計算は別紙第一目録の下欄)。
(3) 右按分した簿外収入金額を、原告の正規の公表帳簿に圧縮され記帳されていた収入金額(申告額)に加算して原告の総収入金額と計算(詳細は別紙第二目録順号1ないし5)。
(二) 下記五法人の抽出が、単に同一市内の青色申告の同業者ということでなされたのであれば、営業状態の差異を無視したものであつて普偏性に不足しており、それに基いて算出された収入総利益率による所得推計は合理性を欠く。
(二) 収入総利益率
(1) 基礎係数として、本件事業年度当時、桐生市および伊勢崎市にあつて原告と同じ事業を営み、青色申告をなしていた五法人の収入総利益率を採用。
(2) 右の基礎計数に、標準偏差から限界値を求める方法を用いて得た平均値二一・六〇パーセントを原告の収入総利益率とした。
(三) 課税所得金額
(1) (一)の総収入金額に(二)の収入総利益率を乗じて算出される金額が推計によつて得られた収入総利益金額である(詳細は別紙第二目録順号5ないし7)。
(2) 右の収入総利益金額から次の計算過程によつて課税所得金額が算出される(詳細は別紙第二目録順号8ないし28および同第三目録)。
(収入総利益金額)-(営業費)=(営業利益金額)
(営業利益金額)+(営業外収益)-(営業外損失)+-(法人税法による税務修正加算減算金額)=課税所得金額
五、被告主張の推計方法を前提にすれば、課税所得金額が被告主張の金額になることは認める。
五、以上三、四の方法により原告の所得金額を推計した結果、原告の本件事業年度における課税所得金額は九、〇九〇、二九一円となるが、これはむしろ本件更正処分が課税所得金額とした六、六四九、〇五九円を上回つており、右処分に何ら違法な点はない。
第二争う。
第二重加算税賦課処分の根拠
前記第一の三で述べたように、原告はその取引銀行に仮名預金を設定し、取引の一部を隠ぺい仮装した金額を預け入れるなどの一連の行為計算をしているので、国税通則法六八号に基いて重加算税を賦課した。
(原告の仮定的主張)
仮に被告主張の普通預金が原告に帰属するとしても、
(上記主張に対する被告の反論)
(一) 右預金の期日預入額は殆ど期中に払戻されているが、その払戻金の行方として判明しているのは架空名義の定期積金に本件事業年度に預け入れられた金額のみであるから、簿外収入とするのは右金額のほかには各預金の期末残高を加えた総額(亀山幸雄名義の分は除く)に止めるのが至当である。
(一) 法人の所得の金額は、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額である(法人税法二二条一項)から、原告主張のように残存するもののみをもつて課税対象とすることは合理的ではない。
期中払戻金の使途は、次のものが判明しており、昭和三六年二月から昭和四〇年二月までの間に四二、三七三、三〇六円の多額に及ぶ。
<1> 定期積金積立額
<2> 証券投資 (藍沢証券へ)
<3> 〃 (丸荘証券へ)
<4> 知人へ銀行送金
<5> 預金間の振替をした額
(二) 然らずとするも、使途の判明しない期中払戻金は収入原価に使用されたとみるべきであり、期中預入額を申告収入額に加算する以上は、右払戻金を申告収入原価に加算するべきである。
(二) 上記払戻金の全額が収入原価に使用されたとみることは合理的ではない。原告記帳の収入原価は信憑性が低いので、収入総利益率から収入総利益金を算出する方法によつて収入原価を推計したのである。
(証拠)
(証拠)
一、甲第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし三各提出。
一、乙第一号証の一ないし二二、第二号証の一ないし二〇、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし八、第五号証の一ないし二三、第六号証の一ないし一三、第七号証の一ないし六、第八号証の一ないし一二、第九号証、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一ないし四、第一六号証、第一七号証の一ないし五、第一八号証、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一ないし六、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし六、第二五号証の一ないし六、第二六号証の一ないし一〇、第二七号証の一ないし七、第二八号証の一ないし六、第二九号証の一ないし六、第三〇号証の一、二、第三一号証の一、二、第三二号証の一ないし三、第三三号証の一、二、第三四号証、第三五号証の一ないし七、第三六号証の一ないし四、第三七号証の一ないし一〇、第三八号証、第三九号証、第四〇号証の一ないし四、第四一号証の一、二、第四二号証の一ないし五、第四三号証の一ないし三、第四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし三、第四六号証の一、二、第四七号証の一ないし二四、第四八号証の一ないし四、第四九号証の一ないし四、第五〇号証の一、二、第五一号証の一ないし五、第五二号証の一、二、第五三号証の一ないし三、第五四号証の一ないし三、第五五号証ないし第六〇号証各提出。
二、乙第三四号証、第三八号証、第三九号証、第四八号証の一ないし四、第四九号証の一ないし四、第五五号証ないし第六〇号証の成立はいずれも認める、その余の乙号各証の成立はいずれも不知。
二、甲号各証の成立はいずれも認める。
理由
一、請求原因の一項ないし四項の事実および原告と訴外株式会社とがいずれもパチンコ店営業を業とし代表者を同じくする姉妹会社であることから事務所は双方に共通であり同一の事務員によつて経理が行われ同一人によつて現金の管理がなされていたことは、当事者間に争いがない。
二、架空および他人名義普通預金の帰属
成立に争いのない乙第五八号証により真正に成立したものであることが認められる乙第一号証の一ないし二二、第二号証の一ないし二〇、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし八、第五号証の一ないし二三、第六号証の一ないし一三、第七号証の一ないし六、第八号証の一ないし一二、第九、一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一ないし四、第一六号証、第一七号証の一ないし五、第一八号証、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一ないし六、第二三号証の一ないし五、第二四号証の一ないし六、第二五号証の一ないし六、第二六号証の一ないし一〇、第二七号証の一ないし七、第二八号証の一ないし六、第二九号証の一ないし六、第三〇号証の一、二、第三一号証の一、二、第三二号証の一ないし三、第三三号証の一、二、成立に争いのない乙第三四号証、成立に争いのない乙第五七号証および前記乙第五八号証により真正に成立したものであると認められる乙第三五号証の一ないし七、成立に争いのない乙第五九号証により真正に成立したものであると認められる乙第三六号証の一ないし四、前記乙第五七号証により真正に成立したものであると認められる乙第三七号証の一ないし一〇、成立に争いのない乙第三八、三九号証、前記乙第五八号証により真正に成立したものであると認められる乙第四〇号証の一ないし四、第四三号証の一ないし三、第四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし三、成立に争いのない前記乙第五七、五九、六〇号証を総合すると、以下のことを認めることができる。
(一) 訴外横浜銀行桐生支店に、青木俊雄、今井義一、町田三郎、松崎八郎、下山洋一、亀山幸雄、松田一、伊藤康穂および原田太市各名義の普通預金が存在していたが(口座番号は別紙第四目録記載のとおり、同目録に記載のない原田太市名義普通預金の口座番号は二、八三〇)、右のうち亀山幸雄を除く各名義人は、それぞれの普通預金元帳に記載された住所に住民登録がない。また前記各証拠のほか成立に争いのない甲第二号証の二、三によれば、亀山幸雄なる者は実在するが、同人は原告らの従業員である。
(二) 右の普通預金には次のような特徴がある。
(1) 青木俊雄、今井義一、下山洋一各名義の普通預金は均一日掛入金がなされており、亀山幸雄、原田太市各名義の普通預金においても日掛入金がなされていた。
(2) 被告は昭和三九年一一月下旬に原告の所得調査に着手したが、青木俊雄、今井義一、町田三郎、松崎八郎、下山洋一、伊藤康穂各名義の普通預金は、それとほぼ同時期の同年一〇月二八日ないし同年一一月二一日を最後に預入、払戻が中止され、以後は利息加入のみがなされている。また、原田太市名義の普通預金は本件事業年度より前の昭和三五年四月一四日に解約され、亀山幸雄、松田一各名義の普通預金は被告の右調査着手時より前に預入、払戻が中止されている。
(3) 青木俊雄、今井義一、松崎八郎、下山洋一、亀山幸雄、原田太市各名義の普通預金元帳には住所として桐生市本町六丁目と記載されているが、これは原告の本店所在地と一致する。また、町田三郎名義の普通預金元帳には住所として桐生市本町五丁目と記載されているが、これは株式会社浅草の本店所在地と一致する。
(4) 亀山幸雄という姓名のものが、原告らの従業員中に存在することは前記のとおりであり、さらに原告らにおいて経理事務を担当している従業員の姓名は下山洋一と一字違いの下山洋子である。
(5) 今井義一名義の昭和三五年四月三〇日付普通預金払戻請求書の「横浜銀行殿」という不動文字の左下に鉛筆書きで「銀座」と記されており、同人の同年二月一二日付普通預金入金票にも「今井義一」というペン書きと重なつて鉛筆書きで「銀座」と記されている。また同日付の青木俊雄の普通預金入金票にも、「青木俊雄」というペン書きと重なつて鉛筆書きで「浅草」と記されている。
(6) 松崎八郎名義普通預金の昭和三九年一〇月二八日付の金三〇〇、〇〇〇円の普通預金払戻請求書の裏面に一一三、八〇〇円プラス一八六、二〇〇円なる金種区分の表示があるが、同日付で横浜銀行桐生支店から同銀行高崎支店の岸良和の当座口へ原告の当時の代表取締役小太刀賢次名義で金一一三、八〇〇円が振込送金されている。
昭和三九年一月二九日に、下山洋一名義普通預金から金六二〇、〇〇〇円、松崎八郎名義普通預金から金五五三、一五〇円、今井義一名義普通預金から金六〇八、一五〇円が払戻されたが、その合計額にあたる金一、七八一、三〇〇円が、同日付で横浜銀行桐生支店から同銀行東京支店の藍沢証券株式会社の当座口へ大岩ミネ名義で振込送金されている。同証券会社は同日付で右金一、七八一、三〇〇円を大岩ミネ名義の証券取引口座に入金したが、同社保管の同人名の振替入金伝票には「小太刀殿依頼」という記載がある。
(7) 横浜銀行桐生支店の昭和三五年二月三日の入金伝票によると、出納番号一二ないし一七の取引先名は順に株式会社浅草、原告、株式会社浅草、亀山幸雄、青木俊雄、今井義一となつている。以下同様に、同月二九日の出納番号五二ないし五六は順に青木俊雄、今井義一、下山洋一、亀山幸雄、原告、同年三月一八日の出納番号七九ないし八四は順に今井義一、青木俊雄、亀山幸雄、原告、株式会社浅草、南銀座(株式会社浅草の伊勢崎営業所)、同月二一日の出納番号九四ないし九九は順に南銀座、原告、株式会社浅草、亀山幸雄、今井義一、青木俊雄、同年四月一一日の出納番号一ないし一〇は順に原告、同、南銀座、株式会社浅草、亀山幸雄、同、青木俊雄、同、今井義一、同、同月一二日の出納番号二ないし八は順に小太刀セン、亀山幸雄、今井義一、青木俊雄、南銀座、株式会社浅草、原告、同月一三日の出納番号一ないし六は順に原告、南銀座、株式会社浅草、今井義一、青木俊雄、亀山幸雄、同月一八日の出納番号三ないし八は順に青木俊雄、同、亀山幸雄、同、今井義一、同、昭和三七年一〇月二日の出納番号二九ないし三一は順に下山洋一、青木俊雄、伊藤康穂、同月三〇日の出納番号一ないし三は順に青木俊雄、伊藤康穂、下山洋一、同年一一月五日の出納番号八七ないし八九は順に下山洋一、今井義一、伊藤康穂となつている。
右昭和三五年四月一八日の出納番号三の入金伝票には欄外に「109,150-」という記載があるが、これは右出納番号三ないし八の入金額の合計と一致する。
(8) 前記(7)の各入金伝票の出納係欄押捺の印影はすべて同一である。
(9) 横浜銀行桐生支店の昭和三五年四月一四日付入出金伝票によると、次のような預金相互間の振替がある。
(イ) 原田太市名義の普通預金から金五、四三二円が払戻され、同一金額が松崎八郎名義の普通預金に入金されている。さらに、右の原田太市名義普通預金払戻請求書の左下すみに「解約―No.2627」との記載があり、その数字部分は抹消されているが、この二六二七という数字は松崎八郎名義普通預金の口座番号と一致する。
(ロ) 松崎八郎名義の普通預金から金六一、二〇四円が払戻され、同一金額が青木俊雄名義の普通預金に入金されている。
(ハ) 松崎八郎名義の普通預金に金二九四、〇〇〇円、町田三郎名義の普通預金に金一八三、〇〇〇円がそれぞれ入金されているが、その合計額にあたる金四七七、〇〇〇円が青木俊雄名義の普通預金から払戻されている。
(ニ) 右(ハ)の松崎八郎名義普通預金の入金票には、「現金」として金二九四、〇〇〇円、「cash」として金四六、五六〇円、合計金三四〇、五六〇円と記載させてあり、金四六、五六〇円についてのみ金種別が表示されている。
(10) さらに、別紙第五目録(1)ないし(4)記載のとおりの預金相互間の預け替えがなされている。
(11) 前記小太刀賢次名義の昭和三九年三月三〇日付普通預金払戻請求書の筆跡と今井義一の同日付普通預金払戻請求書の筆跡とが極めて類似している。そして前者の筆跡は、原告の昭和三九年二月一日から同四〇年一月三一日までの事業年度の法人税確定申告書および株式会社浅草の昭和三七年三月一日から同三八年二月二八日までの事業年度の法人税確定申告書における当時の代表者小太刀賢次の自署すべき部分の筆跡と一致している。
以上の事実が認められ、これを総合すれば、前記(一)記載の青木俊雄名義のほか八口の普通預金はいずれも原告および株式会社浅草に帰属するものであり、原告および株式会社浅草の簿外の収入がこれらの普通預金に預け入れられていることを推認することができる(これらの普通預金が原告の正規の備付帳簿に記載されていないことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる)。右認定に反する前記甲第二号証の二、三は信用できず、成立に争いのない甲第一号証の一ないし一〇も右認定を覆すに足りず、他に右認定を左右する証拠はない。なお、前記乙第六〇号証により真正に成立したものであることが認められる乙第四六号証の一、二によれば、原告らの従業員である亀山幸雄自身に帰属する普通預金が、前述のものとは別に、横浜銀行桐生支店の口座番号一、四三五として存在することが認められる。
三、推計課税の許否
原告は、原告が青色申告の承認を受け、法定の諸帳簿を備え付け、税理士指導のもとに記帳をなしていたのであるから、推計課税を行なう前提を欠くと主張するが、前記二のとおり、原告が備え付けている諸帳簿類は取引の一部を隠ぺい仮装した記帳があつてその真実性を疑うに足りる理由があるから、被告が法人税法一二七条一項三号により、原告の受けた青色申告の承認を昭和三六年二月一日以降の各事業年度につき取り消す処分をなしたこと(被告が同処分をなしたことは弁論の全趣旨により認められる。)は適法であり、また右事情により該諸帳簿類の信頼性が乏しいので、被告が原告に対し、旧法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号)三一条二項により、原告の財産の増減の状況、収入若しくは支出の状況およびパチンコ遊戯機械の台数その他の規模にもとづき、所得金額を推計して国税通則法二四条による更正をなしたことは正当であつて、右主張は採用できない。
四、課税所得金額の算定
(一) 総収入金額
(1) 被告は、前記二の九口の架空および他人名義普通預金のうち本件事業年度より前に解約された原田太市名義普通預金を除く八口の普通預金の、本件事業年度における預入総額から、売上収入金額とは直接関係のない金額(預金相互間の預け替えによる預入額-その詳細は別紙第五目録(2)受取利子預入額等の合計額)を差引いた残額を、原告および株式会社浅草の本件事業年度における簿外収入金額と計算したと主張するが、この方法は合理的であると認めることができる。その金額は、乙第一号証の一四ないし一六、第二号証の一二ないし一四、第三号証の五、六、第四号証の五、六、第五号証の一六ないし一九、第六号証の一三、第七号証の五、第四〇号証の一によれば、別紙第一目録のとおりであると認められる。なお乙第七号証の五によれば前記松田一名義普通預金は、本件事業年度においては利子の預入のみで他に預入はないから、右預金に原告の本件事業年度の簿外収入は含まれていないことが認められる。
原告は、仮に右八口の普通預金が原告に帰属するとしても、その期中預入額はほとんどが期中に払戻されており、払戻金の行方として判明しているのは架空名義の定期積金に本件事業年度に預け入れられた金額のみであるから、簿外収入とするのは右金額のほかには各預金の期末残高を加えた総額にとどめるべきであるというが、ここで算出しようとしているのは本件事業年度中の益金の額なのであり、損金は別に算定してこれを控除する(法人税法二二条一項)のであるから、原告主張のように本件事業年度末に残存するもののみをもつて右事業年度中の益金の額とすることは正しい方法ではない。
(2) 右の簿外収入は、原告の収入と株式会社浅草の収入とが混合されているから、これを分別するには推計によるしかなく、その方法として両会社のパチンコ遊戯機械台数の割合でこれを按分するのは合理的な方法であると認めることができる。本件事業年度における遊戯機械台数が、原告二八一台、株式会社浅草二九一台(ただし、昭和三七年二月分については、原告二四〇台、株式会社浅草二九一台)であることは当事者間に争いがない。按分の計算は別紙第一目録下欄のとおりである。
(3) 被告は、右(2)によつて算出された原告の簿外収入金額を原告の正規の公表帳簿に圧縮され記帳されていた収入金額(申告額)に加算して、原告の総収入金額と計算したと主張するが、右簿外収入金額と申告収入金額とに重複する部分があると認めるべき特段の事情のない本件においては、右の方法は合理的であると認めることができる。その計算は別紙第二目録のとおりである(原告の申告により収入金額が同目録記載の金額であることは当時者間に争いがない)。
なお原告は、前記各普通預金の使途の判明しない期中払戻金は収入原価に使用されたとみるべきであり、期中預入額を申告収入額に加算する以上は、右払戻金を申告収入原価に加算するべきであるというが、右払戻金の全額が収入原価に使用されたとみることは妥当でなく、また払戻金中収入原価に使用された額を個別に認定することも困難であるから、後記(二)のように統計学的方法によつて原告の収入総利益率を算出し、これによつて収入原価(損金)を推計するのが合理的な方法である。この場合右期中払戻金中の妥当な額が収入原価として評価されていることになるのであるから、原告の主張は失当である。
(二) 収入総利益率
被告は、本件事業年度当時に桐生市および伊勢崎市にあつて原告と同じ事業を営み、青色申告をなしていた五法人の収入総利益率を基礎係数とし、標準偏差から限界値を求める方法を用いて得た平均値二一・六〇パーセントを原告の収入総利益率としたと主張するが、前記のように原告の収入原価を個別に把握することが困難である以上は、このように統計学的方法を用いることは合理的であると認めることができる(成立に争いのない乙第五五、五六号証によれば、算術平均によらず右の方法を用いることがより合理的であると認められる)。いずれも成立に争いのない乙第四八号証の一ないし四、第四九号証の一ないし四、乙第五八号証により真正に成立したものと認められる乙第五〇号証の一、二、第五一号証の一ないし五、第五二号証の一、二、第五三号証の一ないし三、第五四号証の一ないし三、および右第五八号証によれば、右の基礎係数の正確性を疑うべき事情はないことが認められ、その計算も正しい。
原告は、右の推計方法は各業者の営業状態の差を無視したものであつて合理性を欠くというが、各業者の営業状態に差があるのは当然のことであつて、その平均値を求めるのが右推計方法の目的なのであるから、原告の営業状態が同業者の平均よりはるかに悪いということを原告が立証すれば格別(前記甲第二号証の三によるもこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足る証拠はない)、そうでない限り、原告の右主張は採用の限りでない。なお、基礎係数とされた法人数が少数にすぎるということもない。
(三) 課税所得金額
前記(一)で算出した総収入金額に前記(二)に算出した収入総利益率を乗ずれば推計による原告の収入総利益金額が算出されるから、さらに別紙第二目録記載の計算過程を経て、原告の本件事業年度における課税所得金額が九、〇九〇、二九一円と算出される(被告主張の推計方法を前提とすれば、原告の課税所得金額が右の金額になることは当事者間に争いがない)。
五、前記四により算出された原告の本件事業年度にかける右課税所得金額は、本件更正処分が課税所得金額とした六、六四九、〇五九円を上回つているから、右更正処分に違法の点はなく、これを取消すべき理由はない。
六、重加算税賦課処分について
前記二で認定したとおり、原告はその取引銀行に仮名および他人名義の預金を設定し、取引の一部を隠ぺい仮装して、それにもとづいて納税申告書を提出したのであるから、国税通則法六八条によつて請求原因三記載の税額の重加算税を賦課すべきこととなるのであり、右賦課処分を取消すべき理由はない。
七、以上の次第で原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 植村秀三 裁判官 柳沢千昭 裁判官 出口治男)
第一目録
別表1 横浜銀行桐生支店 簿外普通預金の入金明細表 (株式会社銀座)
<省略>
第二目録
別表二 総収入金額および所得金額の計算
(株)銀座 自昭和三七年二月一日 至昭和三八年一月三一日 事業年度分
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第三目録
別表三
営業費内訳 (株)銀座
自昭和三七年二月二日 至昭和三八年一月三一日 事業年度分
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第四目録
別紙
普通預金明細 (株)銀座
自三七、二、一 至三八、一、三一 事業年度分
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別表1 (その1) 第5目録(1)
普通預金間の振替の内訳明細
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第5目録(2) (その2)
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第5目録(3) (その3)
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第5目録(4) (その4)
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第5目録(5) (その5)
<省略>
第5目録(6) (その6)
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